屋根裏ネコのゆううつ II

屋根裏ネコのゆううつ II

intro

「ただ、生きていてほしい、それだけでいい、他はすべて大したことじゃない」
屋根裏ネコのゆううつ II

daydream believer

Jの「記憶の夢」を見た。見覚えがある学校の、見覚えのない6年生の教室。それが夢だとわかったのは、そしてJの記憶だと気付いたのも、同じ理由で、だった。それは、「泡」が見えたから。どうやら昼休みらしい、教...
屋根裏ネコのゆううつ II

daydream believer ii

あっけなさ過ぎて、拍子抜けするくらいだった。「人はどんな事にでも慣れる存在」、とは云うけれど、慣れ、だけでこんなにあっさりと済んでしまうものかなと思う。Lが半年ぶりに眼を覚ましたあの場に僕も居合わせて...
屋根裏ネコのゆううつ II

daydream believer iii

放課後、帰りのホームルームが終わり、さよならの挨拶をした後で、もう一度席に着いた。ランドセルを背負って、次々に教室を出て行くクラスメイトたちを眼で追って、「キクタ、帰らない、の?」僕に倣って椅子にぴょ...
屋根裏ネコのゆううつ II

daydream believer iv

上品な紺色のカーペットの敷かれた床から白い天井まで、奥の壁一面が窓になっているリビングには、西の空から午後の日差しがまっすぐに差し込んで、灯りを点けなくても十分に明るかった。逆光になった手前のソファは...
屋根裏ネコのゆううつ II

daydream believer v

西に傾きかけた日がほぼ真横から差し込んで、広いリビング全体が明るく照らされる頃、僕らはルリおばさんの部屋を辞すことにした。時計は見当たらなかったけれど、17時少し前くらいだったのかな。ソファから立ち上...
屋根裏ネコのゆううつ II

eine kleine nachtmusik

秋の日は釣瓶落とし、と云うのは、秋は日に日に日暮れが早まる、という意味だよ、そう祖母に教わった事をふと思い出す。でもあんたには釣瓶もわからないねえ、今時そんなものにお目にかかることはめったにないもの、...
屋根裏ネコのゆううつ II

eine kleine nachtmusik ii

見覚えのある小学校の、見覚えのない夢を見た。見慣れた校舎のどこか、なのだろうけれど、その場所がどこにあるのか、僕は知らない。これもまた、誰かの記憶?「海」に保管された、つながりのある誰かの「記憶」Jか...
屋根裏ネコのゆううつ II

eine kleine nachtmusik iii

まるで僕らの帰還を見計らっていたみたいに、星の砂浜のトーテムに下げられた貝殻の風鈴が、からからと軽やかに鳴った。風を受けて鳴る時の音ではなく、それは、誰かの訪問の合図。「へえ」やさしげな微笑みを浮かべ...
屋根裏ネコのゆううつ II

eine kleine nachtmusik iv

いっぺんにいろんな記憶を見過ぎたせい、だったかもしれない。思った以上に疲れていたようで、土曜日はそれ以降、何も手につかなかった。買い物から帰った父と母の楽し気な土産話もほとんど耳に入らずに夕食を終え、...
屋根裏ネコのゆううつ II

eine kleine nachtmusik v

ふわり、とナナが席を立ち、ちょいちょいと無言で僕に手招きして、テラスから砂浜へ降りて行く。なんだろう、と思いつつナナの後について行くと、あの流木の前で立ち止まり、ナナはふわりと流木のクッションに腰掛け...
屋根裏ネコのゆううつ II

eine kleine nachtmusik vi

ニュータウンの瀟洒な街灯に照らされた広い歩道を、まっすぐに北へ向かって僕らは進んだ。前を歩くルリおばさんは、いつか市バスから見かけたあの時のように、楽しげに鼻歌でも唄い出しそうな歩調で、踊るように歩い...
屋根裏ネコのゆううつ II

scarborough fair

翌日の火曜日。ハナは、今日はいつも通りお休みらしい。朝、テラスを振り返ってみると、テーブルの上の花瓶は空だった。昼休みになり、6年生の教室へ向かおうと、席を立つ。昨夜のうちに、昼休みに一緒にアイのとこ...
屋根裏ネコのゆううつ II

scarborough fair ii

水曜日、昼休みにアイの教室へ向かった。制服のズボンのポケットに、ハルのスマホをこっそりと忍ばせて。一応、表向き学校では禁止されているスマホを持って校内を歩くという行為に、思いのほか、緊張している僕自身...
屋根裏ネコのゆううつ II

scarborough fair iii

大きな手提げの付いた、衣装鞄(ガーメントバッグ?とかスタイリストさん達は呼んでた)にレンタルした衣装一式を入れてもらって、同じくレンタルした靴の入った箱は別の手提げ袋に入れてもらい、それを両手に提げて...
屋根裏ネコのゆううつ II

unchained melody

何とも云えない奇妙な、けれどある種の強烈な印象を残して、車椅子の男とそれに付き従う黒いドレスの女はパーティ会場を去った。男は、「ミクリヤにお礼とお祝いを」と云いながら、Lのお父さんお母さんには挨拶する...
屋根裏ネコのゆううつ II

unchained melody ii

ぴりぴりぴりぴり、ヘッドホンから聞こえる警告音は大きく鳴り続け、どんどん近づいて来る。あれがここへ来る前に、確かめたかったけれど。ハンスに、彼の能力について、「輪」なのかそれとも昨日の「渦」なのか、そ...
屋根裏ネコのゆううつ II

unchained melody iii

夜、オレンジの海に素足をつけて、波打ち際を歩く。空は今夜もオレンジの光を映してぼんやりと明るく、ほの暗い海の水は心地良い冷たさだった。この海の水は、僕らの知る海と同じ水じゃない、という話は、確か、Lに...
屋根裏ネコのゆううつ II

unchained melody iv

火曜日の放課後、帰りのホームルームが終わり1・2年生の玄関を出て、校門の手前で、立ち止まる。たぶん、違うクラスの2年生かな、女の子が数人固まって、校門を塞ぐような形で何やらひそひそとおしゃべりをしてる...
屋根裏ネコのゆううつ II

unchained melody v

夜、「オレンジの海」には、柑橘系の甘い果物のような香りのやわらかな風が吹いてる。テラスの椅子にもたれて、僕はひとり、ほのかにオレンジの光を映す広い空をぼんやりと見上げてた。ガラス張りのテラスの屋根に、...
屋根裏ネコのゆううつ II

end of the world

暗く冷たい鉄の感触がする。錆びついた硬い鉄の床の上で、うっすらと眼を開く。床がゆらゆらと揺れている。ちゃぷちゃぷと、どこからか水音が聞こえる。天井のあたりに、細く白い光が差し込む隙間があって、刃物のよ...
屋根裏ネコのゆううつ II

end of the world ii

台風一過、とは少し違うのかもしれないけれど、熱帯低気圧が通り過ぎた翌日の金曜日は、爽やかな秋晴れの一日。小学校では、朝からお昼まで、明日の運動会に備えて、全校での予行練習だった。金曜日なので、今日もハ...
屋根裏ネコのゆううつ II

end of the world iii

耳が痛くなるような静けさと、宙を漂う無数の記憶の欠片。まるで、世界の終わりのように、色を失くし割れて砕けた、記憶の風景。これが、切れ目切れたつながりそれなら、元通りつなぐ方法は?自ずとわかる、そうナナ...
屋根裏ネコのゆううつ II

end of the world iv

夜の浜辺は、海ではなく、川幅の広い河口付近らしかった。それでも、海の近くには違いないので、船底を叩く波があった事も、潮の匂いがした事も、納得ではあるけれど。ハンスによると、ホワイトとブラウンが、あの古...
屋根裏ネコのゆううつ II

yesterday once more

静かな海の底には風もなく、波音もここでは聞こえない。ほのかに白く光る小さな花々は、風もないのにふわふわと楽しげに揺れているように見えた。テラスの椅子に座ったまま、気づけば僕はそこにいた。いや、椅子と僕...
屋根裏ネコのゆううつ II

yesterday once more ii

父がガレージから出して来たオンボロ軽自動車を見て、ふと思い立って助手席に乗り込んでみた。別に何も云われないかな、と思っていたのだけれど、「おや、おまえさん、後ろじゃなくていいの」運転席から父にさらりと...
屋根裏ネコのゆううつ II

yesterday once more iii

西にそびえるススガ岳の黒い山影が、市街地から見るよりもだいぶくっきりと大きく見えてくる。その裾野に広がる田園地帯の南の端、森と湖の間を縫うように、高速道路が通っていた。道幅の拡張工事が行われているらし...
屋根裏ネコのゆううつ II

yesterday once more iv

車を降りると、海沿いの住宅街よりも標高が高いせいかな、木々に囲まれた山の空気は少し肌寒く感じられた。ぴんと張り詰めた空気が辺りに漂っているような気がするのは、道路を塞ぐように並んだ立ち入り禁止の柵のせ...
屋根裏ネコのゆううつ II

yesterday once more v

建物の正面の入り口が見えて来た。ガラスの自動ドアだけれど、開くのかな。ドアの横の灰色のコンクリートの壁面に、銀色にピカピカ光る鏡のような素材で、文字が貼られているのは、看板だろうか。West Bldg...
屋根裏ネコのゆううつ II

fool on the hill

西棟1階の大型実験室「1C」は、エアコンが効きすぎた部屋みたいに、ひんやりと寒かった。底冷えする、と云うのかな。足元からじわじわと、冷たさが上がって来るような。見渡したところ窓もなさそうだし、室内に日...
屋根裏ネコのゆううつ II

fool on the hill ii

エレベーターで5階へ戻ると、どこからか鈴の転がるような笑い声が響いてた。もちろん、ここは認識の消された立ち入り禁止の建物で、このフロアにいるのは、ルナと親分と、生命維持装置の中で眠るキクヒコさんだけ、...
屋根裏ネコのゆううつ II

fool on the hill iii

家に帰り着いた時には、もう日が暮れかけてた。工事現場の高い塀の向こうに、沈む太陽はほとんど隠れていて、オレンジ色の夕日の最後のひとかけらが、上空から降りて来る紺色の夜空に抗うように、西の空をうっすらと...
屋根裏ネコのゆううつ II

fool on the hill iv

「自分の事はどうでもいいの。興味がないのかなあ」さっき云ってたガブリエルのその指摘は、存外、的を射てるのかもしれない、と思う。元々、「キクタ」はどこの誰かもわからない赤ん坊だった。どこから来たのか、ど...
屋根裏ネコのゆううつ II

fool on the hill v

明るい午後の公園から、一瞬で暗い地下へ移動したせいだろうか。ゴーグルを付けていても、少しの間、薄暗い視界にはほとんど何も見えなかった。隣に立つガブリエルは黒い影絵のようで、腕に抱いたNの青と琥珀色の眼...
屋根裏ネコのゆううつ II

fly me to the moon

意識空間のお茶は、いつまでも冷める事がない。湯呑みを手にした時にそれを思い出して、一口飲んだら少し猫舌ぎみの僕にちょうど良い熱さで、心がほっとする、ような気がした。ふむ、とナナが両手で包み込んでいた湯...
屋根裏ネコのゆううつ II

fly me to the moon ii

午後になって少し雲が出てきたけれど、ぽかぽかの小春日和はまだ続いていた。軽トラックの窓からスズキの親分に見送られて、ルナとふたり、並んで南の通学路を歩く。右手に下げた通信会社のロゴ入りの紙袋がちょっぴ...
屋根裏ネコのゆううつ II

fly me to the moon iii

翌日からはどんよりとした曇り空が続いてた。台風が近づいているらしく、湿気を帯びた強い風が吹いて、時折、ぱらぱらと雨が落ちてくるような不安定な天気。何だか、僕らの心の中のそこはかとない不安を、秋の空が映...
屋根裏ネコのゆううつ II

fly me to the moon iv

翌日の金曜日。放課後、ランドセルを背負って席を立とうとした所で、「キクター」先に席を立って、教室のドアへ向かいかけてたルナののんきな声に呼ばれた。「ガブ・・・じゃない、えーとミカエルー?」疑問形で。振...
屋根裏ネコのゆううつ II

(they long to be) close to you

夜のうちに、台風は通り過ぎていたらしい。土曜日、朝には雨は上がってた。でも、台風一過、と云うには、まだ少し早いのかな。名残りみたいな強い風が時々思い出したように吹いてた。どんよりと重く湿った空気を、ど...
屋根裏ネコのゆううつ II

(they long to be) close to you ii

ごおん、と大きな鋼鉄のハッチのゆっくりと閉じる音が、広い地下空間に低く響き渡る。地鳴りのような、足の裏からの振動を感じながら、あらためて薄暗いホールを振り返る。ぽつりぽつりと灯る青白い蛍光灯に照らされ...
屋根裏ネコのゆううつ II

(they long to be) close to you iii

突然のドーリーの訪問で、すっかり何の話をしてたのか忘れてしまってた。ルナの件、だよね。Mに聞きたかったのは、ルナの「抜き取られた意識」の事、それから・・・思い返していると、Mがスッと遠慮がちに手を上げ...
屋根裏ネコのゆううつ II

(they long to be) close to you iv

御子の去ったオレンジの海には、やわらかな柑橘の香りの風が吹いて、いつも通りのやさしい波音だけが遠く響いてた。なんとなく、思いついて、ぱちんと指を鳴らして、みんなのお茶を淹れ直す。仕切り直し、ではないけ...
屋根裏ネコのゆううつ II

(they long to be) close to you v

ざざあ、とやわらかな波音が耳に届いて、僕はホッと息をつく。やっぱりオレンジの海は、いつでもやさしい、癒し空間だ。ちゃんと戻れた事を確かめるみたいに、テラスの椅子に背中をもたせかけると、先に戻ってたルナ...
屋根裏ネコのゆううつ II

(they long to be) close to you vi

玄関を開けて家へ入ると、リビングからテレビの音が聞こえていた。廊下から顔をのぞかせて、「ただいま」を云ったら、母がソファから僕を振り返って、「あら、お帰り。早かったのね」16時過ぎ、なので、まあ早いと...
屋根裏ネコのゆううつ II

outro

「ただ、生きて ーーーーー、それだけで ーー、ーーーーーーーーーーーーーー」
屋根裏ネコのゆううつ II

afterword ii

屋根裏ネコのゆううつ II あとがき(的なメモとか何かとか)「ごめんなさい」「ごめんなさい」と毎日つぶやきながら、駆け抜けるように、勢いと楽しさに任せて、「II」がひとまず終幕です。ありがとうございま...
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