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屋根裏ネコのゆううつ

まぶしさに、目を覚ました。
細く眼を開くと、ベッド越しに輝く朝の海が見えた。
オレンジの海が、並んで昇る二重の太陽に照らされて、きらきらときらめいている。
おだやかに吹く風に、かすかに甘い柑橘類の香りがした。
やさしく繰り返す波の音を聞きながら、まばたきをして、ゆっくりと眼を開く。
夢は、見ていなかったらしい。
見ていたのかもしれないけれど、覚えていなかった。
起き上がって、ベッドを下りる。
信じられないくらい、体が軽い気がした。
何だかとてもうれしい気持ちになって、あらためてふと見れば、東屋に鎮座するごくありふれたベッドには、何とも云えない気恥ずかしさを感じる。
今にもJが、おはよーとか云いながらふわふわとオレンジ色の空を飛んで来そうな気がして、慌ててぱちんと指を鳴らす。
ベッドは消えて、代わりに四角い木のテーブルが現れ、ホッと安堵の息をついた。
いや、この幻想的できれいなオレンジの海の白い星の砂浜に、どんと建つ何の飾り気もない東屋というのも、なかなかひどいセンスだとは思うけれど。
今度時間のある時に是非じっくりと、家具や建物のデザインだとかレイアウトについてきちんと勉強しよう、と心にメモをする。
素朴な木のベンチに腰を下ろして、ぱちんと指を鳴らす。
なんとなく、何か飲み物を、と思ったら、テーブルの上にグラスに注がれた冷えた麦茶が出てきた。
無意識って、本当に強いのかな。素朴な疑問だけれど。
僕の無意識に関して云えば、何というか、想像以上に俗っぽくてかなり平凡な気がする。
冷えた麦茶をごくごくとおいしそうに一気飲みしていたアイを思い出して、またひとりで「ふふふ」と笑う。
グラスを取り、麦茶を一口飲んでみると、予想以上においしく感じて少し驚いた。
まあ、意識だけなので、それはそうなのだろうけれど。
もしも無味無臭だったりしたら、それはそれで、問題な気がする。
何というか、精神的に何かが欠けているとか、そんな問題、かな。
「キクタ、お目覚めでしたか」
そう声がして、振り返ると、白い星の砂浜に、Nがちょこんと座ってる。
海でNの姿を見るのは初めてだったので、少し驚いた。
でも考えてみれば、何も不思議ではないのかな。
僕の意識が今いるのは、Nの体の中なのだから。
Nの意識が、僕の意識空間であるこの海へ来るのは造作もない事なのだろう。
「おはよう」
声をかけて、ふと心配になる。
Nこそ、ずいぶん早起きだけれど、ちゃんと寝ているの。
砂浜をとことこと歩いてきて東屋へ入り、Nは、とん、と軽いひと跳びでベンチの僕の隣に飛び乗る。
「今日は、探索へ出られるのでしょう。そのため、ガブリエルも昨夜は早めに作業を切り上げていました。ご心配なく、ワタシは十分に休めています」
そう云って、ぺろりと黒い鼻をなめてた。
なるほど、それなら良かった。
という事は、ガブリエルは今日もまた助手席で、探索に付き合ってくれるつもりなのだろう。
とても心強い援軍を得たようで、頼もしかった。
どこかでドアが開くような音がした。
見ると砂浜にLの基地へつながるドアが開いている。
相変わらず寝ぐせでぼさぼさのふわふわの金髪をぽりぽりかき回しながら、寝ぼけまなこのLが顔をのぞかせてた。
また、いま起きて、「海」に人の気配を感じて、ドアを開けてみた、というところかな。
「おじいちゃーん、早起きしすぎじゃね」
ふわあと大きなあくびをしながらドアから出てきたLが、僕の隣にいるNを見るなりぱっちりと眼を開いて、砂浜を猛ダッシュで駆けて来る。
東屋へ駆け込むなり僕には目もくれず、Lはさっと素早くNを両手で抱き上げて、
「ネコチャンネコチャンおはよー今日もかわいいねー」
例の甘ったるい鼻声を出しながら、Nに頬をすりよせていた。
「おはようございます、L。今日もごきげんですね」
Lに頬をすりすりされながらも淡々とNがそう云うと、
「おおー!ほんとにしゃべれるんだ、すげー」
Nを高々と抱き上げていつものLの声で云ってから、
「ネコチャンすごいねーかわいいねー」
また鼻声で云い、すりすりと顔をすりよせている。
Nは嫌がる風でもなく、平然とされるに任せていた。
何というか、Lもすごいけど、Nもすごいな、と僕は思った。
それにしても、「オレンジの海」とつながりがあるわけではないNでも、意識体としてこの場所へ入りさえすれば、心の声で話ができるのだな、とあらためて不思議に感じる。
不思議、でも何でもないのかな。意識、だから?
何となく当たり前のように使い、当たり前のように感じている「意識」というものについて、実はまだまだわからない事の方が多いのだな、とも思う。
「K、L、おはよー。あ、Nちゃんも、おはよー」
不意に上の方から声がしたと思ったら、東屋の前にふわりとJが空から降りてきた。
「なるほどねえ。朝からLのハイテンションな声がして、何事かと思った」
ふふふ、と笑いながらJも東屋へ入って来て、僕の隣に腰を下ろす。
「いやー、たまには早起きしてみるもんだねー」
LはNを胸に抱いて、ご満悦だった。
いまだかつて見たことがないくらい、にこにこしてる。
いや、Lはいつも陽気で笑顔だけれど、今日はいつもの倍ほどうれしさがにじみ出ている気がする。
「じゃあ、せっかくみんな早起きしたし、今日は早めに出かけようか?」
Jがそう云うと、
「ええ・・・」
Lが、聞いたこともないような情けない声を上げてる。
まるで、お気に入りのおもちゃを目の前で取り上げられた子供のような?
いつもの、きりっと男前でかっこいいLと同じ人物とはとても思えない、何とも悲し気な声で。
「ええ、じゃないでしょ。L?」
Jが腕組みをして、しつけに厳しいお母さんのように、Lをにらんでる。
「う」
LはそんなJをちらりと見て小さくうめき、すぐに眼をそらすようにうつむく。
「うう、せめてあと10分、んん、5分?・・・いや3分だけ」
胸に抱いたNの頭に顔を半分うずめたまま、Lは眼だけを上げて懇願するようにつぶやいてる。
Jはあきれ顔で肩をすくめ、何か云いかけて口を開いたけれど、言葉にならなかったらしい。
でも、L、出かけるのは、Nも一緒だよね。
5分とか3分とか云わずとも、何なら今日は、一日中ずっと一緒だけれど。
「あ」
まるで今それに気づいたみたいにぽかんと口を開けて、
「おまえ、天才」
僕の顔をまじまじと見て、Lはにっこり笑った。
いや、天才は僕ではなくてLの方だけれど。
「早めに、って云っても、みんな朝ごはんまだでしょ。わたしとKは食べなくてもだいじょうぶだけど。クロちゃんも、Nちゃんも、それにLもね」
Lと僕を見て微笑んでいたJが云う。
それは、そうだった。
Lは、出かける支度もしないといけないだろうし。
「そうだね。じゃあ、1時間、うーん、2時間後、でいいかな?場所は、公園に集合でいい?」
そう、Jが云う。
ふと思った。今何時なのだろう。
「オレンジの海」の夜明けと日没は、おおよそ現実の時間と近い気がするけれど、僕の意識空間である以上、正確に時刻が一致しているというわけではない、のかな。よくわからないけれど、たぶん僕の体内時計?てきなもの?なのでは。
「ん?1時間でいいぞー。オレの支度とうちから公園までの移動を考えて2時間って云ったのかもだけど、1時間で十分だぜー」
Lがそう云って、僕の方を見て
「ちなみに今、現実世界は朝の7時を過ぎたとこだよ。だから、8時過ぎに公園で集合だなー」
ニッと笑った。
朝7時
なんだ、そうなの。
Lが早起き早起きとしきりに云うものだから、もっと早い時間、5時とか6時頃なのかと思ってた。
7時なら、普段通りだね。
「普通の小学生ならね、いつも通りだよねえ。Lはほら、朝起きるの苦手だから」
Jが苦笑してLを見る。
「苦手なのに、今日はちゃんと起きたじゃん」
Lはふくれて、またNの頭に顔をうずめている。
「はいはい、えらいえらい」
Jは苦笑したまま、適当にあしらってる。
そうだった、Lが苦手な早起きをがんばってくれたのは、他ならぬ、僕の「体」を探しにいくため、なのだ。
口に出したらまた照れるだろうから、心の中で「L、ありがとう」と云った。
Lは、困ったような顔でちらりと僕を見たけれど、何も云わなかった。
「それでは、L、準備にかかりましょうか」
空気を読める賢いネコのNがそう云ってくれて、
「おー、じゃあネコチャン、公園で待ってるねー」
Lはにっこり笑ってそう云い、もう一度存分に頬をすりすりしてから、ようやくNを解放してくれた。

Nと一緒に白い部屋へ戻ると、ガブリエルはもう起きていた。
昨日と同じように、テーブルでお茶を飲んでいるらしい、椅子に座った後ろ姿が見える。
部屋に入り、念のため、海へつながる窓のカーテンを閉じてから、
「おはよう」
と声をかけた。けれど、ガブリエルの返事はない。
何か考え事でもしているのかな、椅子に深く腰掛けて、ガブリエルは、宙の一点を見つめたまま微動だにしなかった。
「ガブリエル?」
もう一度、少し大きめの声で呼ぶと、ガブリエルはハッと息を吸い込んで、こちらを向く。
「ああ、帰ったの。おはよう」
微笑んで、そう云った。いつも通りの、明るい笑顔だった、けれど。
どうしたの、何か悩み事?
「ふむ。あ、昨日と逆だねえ」
そう云って、ガブリエルは苦笑する。
昨日と逆?
ああ、昨日はガブリエルが僕に「難しい顔して、何か悩み事かな?」と聞いてきたのだったっけ。
ぱちんと指を鳴らして、ガブリエルが僕の分の紅茶とNにはミルクを出してくれた。
椅子に座ると、Nも空いている椅子にひらりと飛び乗った。
あれ、でもNは出かける前に食事を済ませに行かないといけないのでは。
「はい、こうしてミルクを頂きながらでも、体は食事に向かっております。ルーチンワーク、と云うのでしょう。問題ありません」
さらりと、そう云った。
座ったまま振り返って見ると、Nの視界が映る窓は、カーテンが閉まっているのでここからは向こう側は見えない。
食事の場面を見せない、という配慮かな。
それも含めて、さすが、というか、相変わらず至れり尽くせりの有能な執事ぶりだ。
それで、ガブリエルはいったい何を悩んでいたの。
「ん、ああ、たいした事じゃないんだよ。それより、キミに余計な気を使わせてしまって、何だか申し訳ないな、ってね。今も、わざわざ「海」につながるカーテンを閉じてくれたでしょ」
苦笑したまま窓の方を振り返って、ガブリエルは云う。
しばらくの間ガブリエルのことをみんなに内緒にする、あの約束の事を云っているらしい。
わざわざ、というほどの事でもなかったけれど。
会話の切り替えも、無意識になんとなくできていた事がわかったのはガブリエルのおかげだったし、カーテンを閉めたのは、本当にただ念のため、のことだった。
「だとしてもさ、気苦労でしょ。ごめんね、然るべきタイミングで、きちんとボクからみんなに話せるようにするから」
そう云ったガブリエルの表情は、いつものやさしげな笑顔だったけれど、目の奥には、いつになく真剣な光が宿っていた、ように僕には感じられた。
さっき何か真剣に考え込んでいた事といい、何だろう。
ざわざわと得体の知れない胸騒ぎがする、ような気がして、つい、
「ガブリエル、何か、へんなことしようとしてないよね?」
そう、声に出して聞いてしまった。
「へんなこと?ってどんなこと?」
困ったような笑顔になって、ガブリエルがそう尋ねる。
Nも無言で、じっと僕を見てた。
へんなこと、どんなことだろう。
なんとなく口をついて出た言葉だっただけで、何か具体的なイメージがあったわけではなかった、かな。
何か、ガブリエルが思い悩んだ末に、ひとりで思い切った行動に出てしまうのでは、みたいな、そんな心配、だったかも知れない。
「ふふふ」
ガブリエルは笑った。いつもの、Lにそっくりな陽気な笑顔で。
「じゃあ、ミカエルの真似して云おうか。「おい、それ、おまえに云われたくねーぞー」かな?」
ふふ、とNまで鼻で笑ってる。いやまあ、ネコなので鼻で笑うのが普通?なのかもしれないけれど。
確かに、僕に云えたことではなかったかも知れない。
ひとりで勝手に行動して、その挙句にこんな困ったことになっているのは僕の方だ。
「あ、冗談だからね、そんなに気にしないで」
ふふっとガブリエルは軽やかに笑って、
「それに、ひとりで何かしようにも、いまのボクじゃ何もできないしねえ」
肩をすくめるようにして、首を横に振る。
それも、その通りだ。
ずっと、8年間も僕の中にいて、今も一緒にNの中にいるのだから。
そのガブリエルが、ひとりで、まるでどこか遠いところにでも行ってしまうみたいな、そんな心配をするなんて。
きっと、いつもの僕の心配性なのだろう。
いざ探索に出かける、となって、少し緊張しているのかな。
「ご心配なく」
Nが、ふふんと鼻を鳴らす。
「アナタとガブリエルは、ワタシの中にいる限り安全ですので」
ネコ背の背筋をぴんと伸ばして、Nは自信たっぷりに云う。
「うん、よろしくね」
ガブリエルはNに笑顔を向けて、カップのお茶をぐいと飲み干し、
「じゃあ、そろそろ準備しようか」
いつものやさしい笑顔で云って、席を立った。

少し早めに家を出る事にした。
コクピットに座ると、正面のカーテンがさっと開いて、薄暗い屋根裏が見える。
やっぱり、少し緊張しているかもしれない。小さく、深呼吸をする。
ガブリエルも助手席に座って、前を見つめてる。
いつも通りのおだやかな表情だけれど、どこかぼんやりしているようにも見えた。
まだ、何か考え事をしているのかな。
「だいじょうぶ、行こう」
ちらりと眼だけ僕の方に向けて、ガブリエルが云う。
いつものやさしげな笑顔に、少し安心して「うん」とうなずいた。
「承知しました」
Nがいつものように淡々とそう答えて、音もなく床を蹴って飛び上がる。
魔法のようにくるりと天窓を開いて、屋根の上にふわりと立った。
空はどんよりと曇っていて、ぬるい風が吹いていた。
台風でも近づいているのかな。遠くの空は、雲のない明るい晴れ間が見えているところもあるので、直撃コースではないのかもしれないけれど。
「ふむ。嵐の気配は、おっしゃる通りだいぶ遠いようです」
Nが鼻を上に向けて、くんくんと風の匂いを嗅ぎながら云った。
そんなことまでわかるの。
「100%正確に、ではありませんが、おおよそは」
Nの意識体は、助手席のガブリエルの膝の上にちょこんと当たり前のように座ってた。
ガブリエルも、特にそれを気にする素振りもない。
ここ数日の夜のパソコン作業で、すっかり仲良しになったみたいだ。
その様子がとても微笑ましい。
みんなが仲良しなのを見て嬉しく思うのも、僕が先代から受け継いだ記憶、なのかな。
「念のため、天窓は閉めておきます」
万一、雨が降った時のため、かな。
Nはそう云って、前肢を器用に使って、天窓をぱたんと閉じた。
屋根を滑るように駆け降りて、庭側の塀の上にひらりと降り立つ。
相変わらず、忍者のような身のこなしだ。物音ひとつ立てない。
庭に面した縁側の掃き出し窓は閉まっていて、窓越しに見える祖母の部屋の襖も閉じていた。
Nは足場の狭い塀の上を軽やかに歩いて、リビングの窓の前で速度を緩める。
リビングのカーテンは開いていて、室内は灯りがついてた。
平日の水曜日、壁際の時計は、朝7時45分頃を指している。
普段なら、母はもう仕事に出掛けている時間で、僕と父が朝食を取っている頃、だろうか。
リビングには誰もおらず、キッチンの洗い場から、水音がかすかに聞こえていた。
塀の上をぐるりと玄関脇まで回り込むと、ガレージの門は閉じていて、父のオンボロ軽自動車が停まっているのが見えた。
父もまだ、家にいるらしい。
母もきっとまだ、仕事は休んでいるのだろう。
ふたりの姿を確認したいような気もしたけれど、見てしまえばまた申し訳ないような、情けない気持ちになるだけ、だよね。
「ありがとう、N、出発しよう」
何かを振り払うように、そう声に出して云う。
弱さとか、後悔とか、そんな何か、少なくとも今は役に立たないものだ。
「承知しました」
淡々と答えてくれるNがありがたい。
ガブリエルも、黙ってじっと前を見つめている。僕を気遣ってくれているのか、それともまた何か考え事でもしてたのかもしれない。
ひらりと塀から飛び降りて、Nが軽快に歩道を走り出す。
流れて行く左右の風景と一緒に、僕の中のもやもやした何かも、はるか後ろへ吹き飛んでいけばいい、そう思った。

公園の入り口に着いて、門の間から中をのぞくと、驚いた事にLがもう到着していた。
たぶん、家から一番遠いはずだし、歩く速度もNやクロちゃんの方が断然速いはず。クロちゃんは、歩くではなく飛ぶ、だけれど。
相変わらず、Lは夏休みだというのに今日も学校の制服を着て、いるけれど、なんだか少し、いやすごく?様子が違った。
「あーあ」
ガブリエルが、妙なため息をついて額に手を当て、その指をぱちんと鳴らした。
海につながるカーテンを開けてくれたらしい。
それはひょっとして、僕に何か云って、という事、かな。
でも、何を?
Lは、月曜と同じように公園の真ん中のベンチにふんぞり返るように座り、偉そうに足を組んでいた。
足元の地面には、こちらも先日同様、ラファエルが寝そべっている。
まず眼に飛び込んでくるのは、Lの顔だった。
左眼に黒い眼帯をつけてた。
医療用の眼帯などではもちろんなく、大航海時代の海賊船の船長が付けているような、黒い革のアイパッチ、というのかな。ドクロのマークまでは、さすがになかったけれど。
髪型は、先日のちょんまげではなく、長い髪をざっくりと適当に左右で束ねたツインテールを、ぬるい風になびかせている。
白い半袖の夏服のブラウスの上には、異彩を放つ黒いホルスターを巻いてる。
海外の刑事ドラマとかで刑事がジャケット下のシャツの上から付けているような、ショルダーホルスター?とかいうのかな。
座っているのでよく見えないけれど、脇のホルスターにはきっと拳銃が入ってる、のだろう。
・・・わからない。
いったい、本日のLのファッションは何を意図しているの。
天才の発想は、僕のような凡人にはとても理解できない摩訶不思議な世界だ。
「む」
公園の入り口で立ち止まっていたNに気づいたのだろう。
Lがつぶやいて、さっと立ち上がる。
スカートのポケットに手を突っ込んでいて、その手から、足元に寝そべるラファエルの首に伸びていたリードが、じゃらじゃらと鳴る。
あれは、鎖、なの。
リードの紐が、先日は確か布だったはずなのに、鉄の鎖になってた。
え、いや、重いのでは。
大昔のマンガに出てくるスケバンとか、そんなイメージ?なの。でも、スケバンって銃を持ってるのかな。
しかも海賊みたいな眼帯して。
「ふっ」
マンガみたいな芝居がかった笑い方をして、Lはポケットに突っ込んでいた右手を出すと、素早く脇のホルスターから小さな拳銃を抜いた。
まさか、撃つの。
え、Nを?
モデルガンだろうけれど。いや、エアガンなのかな。いずれにしても、10mくらい離れているし、この距離でNに当たるとは思えないけれど。
カチッとLが拳銃の引き金を引く音がした。
と、同時に銃口から何かが飛び出した、ように見えた?そんな気がした。
「ほう、これは」
Nが感嘆の声を上げる。
視界が動いて、下を向いた。
Nの前肢に何か灰色の紐のようなものが、ぐるぐるとしっかり巻き付いてた。
これは、Lの「線」?
「へえ、驚いた」
さっきまで引き気味だったガブリエルが、身を乗り出してる。
「実際に紐を射出しているわけではなく、引き金を引いた瞬間にはすでに巻き付いているようですね。これがLの能力ですか」
いつも冷静なNが、めずらしく驚いた声でそう説明してくれた。
なるほど、あの拳銃は、目印なのかも。Lの云う、補助輪とか魔法のアイテム、みたいなもの。
「ふふん、ネコチャンつかまえたぜー」
いつもの陽気なハスキーボイスで、Lがうれしそうに云う。
スケバンの時はあの甘い鼻声ではないらしい。
「いや、あのさ、おまえさっきから、そのスケバンて何よ?何時代なの、それ」
Lが肩をすくめるようにして笑い、拳銃をホルスターに収めると、Nの前肢に巻き付いていた灰色の「線」がスッと消える。
すごい。
まさか、たった1日で、本当に「線」を自在に操ってみせるなんて。
さすが、L。
「驚きました」
Nがそう云って、公園の中へ、ベンチの前に立つLに向かって早足で歩き出す。
「うん、伊達に天才児やってるわけじゃないんだねえ」
ガブリエルも素直にそうLを褒めてた。まあ、Lには聞こえてないのだけれど。
自分に向かって歩いてくるNを見て、スケバン?海賊?のコスプレで格好つけていたLの何かがあっさりと崩壊したらしい。
「ネコチャンネコチャーン」
そう叫ぶなり、左手のラファエルのリードをぽいと放り出して、Nに向かって駆けて来る。
え、鎖を放り投げたりしたら、危ないのでは。
「鎖?ああ、鉄の鎖っぽく見えるけど、あれ鉄じゃないから、樹脂だから」
そう、いつものLの声が心で解説してくれる。
じゃらっとすぐ近くの地面に落ちたリードを、ラファエルがちらりと見て興味なさそうに大きなあくびをしてた。
Lは、Nの体をぱっと両手で抱き上げるなり、
「ネコチャンネコチャンかわいいねー」
またあの甘ったるい鼻声を出して頬を擦り寄せている。
眼帯も、じゃまだったらしい。ぐいっと適当に上に上げて、ヘアバンドみたいになってた。
相変わらず、雑なのか細かいのかよくわからない。
Nを胸に抱いてごきげんでベンチに戻りながら、
「一昨日、なんとなくイメージできたって云ったろ?あとは、昨日1日みっちり練習してたら、まあどうにかね」
まあどうにかね、で本当にどうにかしてしまうところが、すごい。
何度も云うけれど、さすが、Lだった。
「でも、まだいろいろ弱点はあるぜー?まず一発しか撃てない。当たり前なんだけど「線」だからねー」
どっこらしょ、とベンチに腰を下ろして、Lは云う。
さっきの「線」は、灰色だったよね。
あれは、Nを指していた「線」という事なの。
「そ。だから一発だけ。指してる線は1本だからね。なんとなく銃で撃ってるイメージで上手くいったけど、実際には線を打ち出してるわけじゃなくて、指してる対象のところへ一瞬で飛ばしてるような感じだなー。あとは、くるくるっとね」
元々、Nを指している線をNのところへ飛ばす、あとはくるくるっと。
いつものことだけれど、Lに云わせると何でも簡単に出来そうに聞こえるのがすごい。
僕には、とても真似できそうにない。
「そう?あいつから体を取り戻したら是非おまえもやってみ。案外簡単だから。あーでも、目印はやっぱり大事だなー。オレも眼帯とモデルガンで、どーにかなってるって感じだね。何もなしでできるのは、Jくらいのもんだろーなー」
Nの頭に顔をうずめて、また匂いでも嗅いでいるのだろうか、鼻をくんくん鳴らしながらLが云う。
残念ながら、今の僕らはNの視界なので、頭の上でLが何をしているのかは見えなかった。
目印
銃で撃つイメージは、一昨日のうちに浮かんでた、とLは云ったけれど。
Lって、小学6年の女の子だよね、なんでそんなモデルガン?持ってるの。まあ、人の趣味にとやかく云うつもりはないけれど。それ、子供用なの。
「子供用って?あー、ちっこいからか?違う違う、これは、こういう拳銃なの。フィラデルフィア・デリンジャー」
Lがホルスターから拳銃を抜いて、Nの視界の前で見せてくれた。
大人なら手のひらに収まってしまいそうな、小さな拳銃だった。
古めかしいレトロなデザインで、Lが好きそうなのもわかる、ような気がする。
「デリンジャー。暗殺用の単発式拳銃だね。どこかの大統領暗殺に使用されて、一躍有名になったとか。映画や推理小説の小道具としてもよく出てくるそうだよ」
ガブリエルが、興味深そうにNの視界に映った拳銃、のモデルガンを眺めながら、そう説明してくれる。
と云うか、8年間僕の中にいたはずなのに、なんでそんな事知ってるの。僕は知らないのに。
「確かに、それ面白いね。全く同じもの見ていたはずでも、覚えてるものや興味の対象が違うからだろうね、へえ」
そっか、同じものを見て同じように育っても、意識が別なら感じ方も考えることも違うのか。そして当然、記憶も違う。それは、そうかもしれない。
でも、ふと思った。
単発式の拳銃なら、一発しか撃てないっていうところも、Lの能力と合ってたわけだね。
「おお、云われてみりゃそーだな。おまえ、冴えてるねー。たまたま家にあって目についたモデルガンがこれだっただけなんだけど、そーいう後付けの意味もアリだよね。いい目印になりそうだなー」
ふふふ、とまんざらでもなさそうに笑って、Lは銃をホルスターにしまう。
それで、眼帯は、何なの。
「ん、何って?」
おでこの上辺りにずり上げたままで、カチューシャみたいになってた黒い眼帯を、やっぱりじゃまなのか引っぱり下ろして今度はネックレスみたいに首に下げて、Lはにやにやしてる。
いや、銃は「線」を撃ち出すイメージでなんとなくわかるけれど、眼帯は何の意味があるのかな、って。
「何ってそりゃおまえ」
Lはもったいつけるように言葉を切って、
「迫力?」
何故か疑問形で云った。
迫力
この間も云ってたけれど、それは、きっと大事なものなのだろう、たぶんLにとっては。

「K!L!」
突然、オレンジの海から、切迫したJの声が響く。
短い声に、焦りと少し恐れのようなものが滲んでいる、ような気がした。
クロちゃんの姿は、見えない。公園の時計は、8時を少し回ったところだった。
「どーした?おまえ、今どこだ?」
Lが尋ねるのとほぼ同時に、Jの声が
「教会に来て、今すぐ!」
早口に云い、最後は悲鳴のように声がうわずっていた。
教会
Jの家、ホタルが丘教会の事だろうか。
いったい何が、と考えて、嫌な予感がした。
「あの子がいる!」
震えるJの心の声が、僕の頭の中に響いた。
Lが胸に抱いていたNをベンチの上にさっと下ろし、身をかがめて地面に落ちていたラファエルのリードを素早く拾って立ち上がる。
「K!」
そう叫ぶなり、Lは公園の入り口に向かって駆け出した。
主人の唯ならぬ様子に何かを察したのか、ラファエルも横に並んでLに従っている。
Nの反応は、素早かった。
僕が何か云うよりも早く、ベンチを飛び降りて公園の中を東へ突っ切り、生垣を飛び越えて路地を走り出していた。
「ホタルが丘の教会ですね。最短距離を行きます」
Nの意識が冷静にそう説明する間にも、体は路地を駆け抜け、民家の敷地を横切り、市街地を東へひた走っていた。
「L、Nは場所がわかるらしい。最短距離で行くって」
そう伝えると、
「おう、頼む。こっちは気にせず、先行ってくれ」
Lが「海」でそう答えた。
公園から、ホタルが丘の教会まで、走れば10分かからないくらいだろうか。
Nならおそらく、もっと早いだろうけれど、それでも5分はかかるかも。
焦る気持ちを抑え、小さくひとつ深呼吸をした。
「J、急いでそっちに向かうよ。Lとラファエルも。それで、今どんな状況?」
なるべく冷静に、Jを落ち着かせるためにも、僕が冷静にならないと。
そう思っていたのに、僕の声はかすかに震えてた。
ふう、とJが大きく息を吐くのが聞こえた。Jも落ち着こうとしてくれているらしい。
「クロちゃんがいるから、わたしはだいじょうぶ。気をつけて来て、K、Lも」
そう云って、Jはもう一度、ふう、と大きく息を吐く。
「わたし、の体ね、月曜に退院してたんだけど、まだ一度も見に来てなかったから、なんとなく、見に来てみたの。8時まで、まだ少し時間あったから。そしたら、教会のお庭に、あの子が立ってた」
Jの言葉で、腕に鳥肌が立つのを感じた。
同時に、疑問も湧いた。
何故、あいつが教会へ?
もしもあいつが、僕らの予想通り「王」を検知する能力を持っているのだとしたら、行くべき場所は、ホタルが丘教会ではなく、ニュータウンの僕の家、なのでは。
一昨日、あの公園であいつは、僕らひとりひとりをまるで確かめるようにじっと見ていた。
王を見つける能力があるのなら、あの時点で、僕(とガブリエル)がNの中にいる事はわかったはず。
それが何故、Jの家へ行く必要があるのだろう。
しかも、今はJの意識もクロちゃんの中にいるので、家にはいない。
家には、月曜に退院したはずの、Jの体?
まさか、
「うん。とっさに、わたし、お部屋の窓を確かめたよ。でも、朝だからかな、しっかり閉まってた。お母さんの事だから、Lに云われた通り、昼間だけ開けてくれてるんだと思う。お庭にあの子の姿が見えて、ううん、まずあの子の白い「泡」が先に見えて、わたし、すぐに木の枝に止まったの。あ、その、クロちゃんがね、止まってくれた。あの子は、お庭の端っこに立ってて、母屋の方を見てた。わたしの部屋の方。だから、もしかしたら、Lの力を使って、白い「線」を見つけて、ここまで見に来たのかなって思った」
「あんのやろー」
短くぼそりとLがつぶやく。Lは、自分の体で走りながら、なのだ。云いたい事は色々あるだろうけれど、今は無理だ。
「そしたら、あの子、あの頭につけてる大きいヘッドホンを、指でとんとん、って叩き始めたの。何かの音が聞こえて、それをよく聴こうとして、調整か何か操作してるみたいな?そんな風に見えた」
そうJが云うのを聞いて、思い出した。
あの日も、あいつはそんな動きをしてた。あの時は、何か僕らにあのアイテムを見せつけるように、とんとん指先で叩いてみせたのかと、僕は思っていたけれど。
何かの音が聞こえて、調整か操作?
「そしたら、とんとんしてる指をピタッと止めて、急に振り返って、木の上にいるわたしを見たの。真っ直ぐに、だよ。少しもきょろきょろしないで、まるで、居場所がわかってたみたいに、くるっと振り返って真っ直ぐにわたしを見た」
また、腕が粟立つ感じがした。
それは、J、怖かったのでは、と思ったら、
「やっぱり、あのヘッドホンでわかるんだよ。わたしとか、能力者?が、どこにいるのか。Kの力で「音」を聞いて、その場所が正確にわかるんだと思う」
ぴこん、と人差し指を立てる姿は見えなかったけれど、きっとJは、クロちゃんの中であのポーズをしているのだろう。
まあ、怖がってないみたいでよかった?けれど。
「音で探知か。潜水艦のソナーとか、コウモリやイルカの超音波なんかもそうだよね」
助手席で、ガブリエルが腕組みをして感心してる。
あの「音」は、探知機なの。
確かに、ヌガノマに反応して、ぴぴぴという警告音みたいなのを発していた事はあったけれど。
「探知機としても使える、という事じゃないかな。今までのあいつの、力の使い方から云っても」
ガブリエルが云うのも、一理ある。
本来の使い道や音の意味するところはわからないにしても、探知機として使うこともできる、そしてあいつはそれをやってみせた。
おそらく、一昨日、あのタイミングで公園に現れたのも、「音」の力を使って、僕らの居場所を知って、なのかも。
「で?」
短く、LがJに続きを促す。走りながらなので、いつもより愛想がないのは、仕方がない。
依然、緊急事態である事に変わりはないのだ。
Jの声が云う。
「で、目が合って、じっとこっちを見てて、あの子、また笑ったの。この前みたいに、にっこり微笑んでた。いつものKと同じ笑顔で」
くっ、という悔しそうなLのうめき声が聞こえた。
やっぱりあの笑みは、挑発、なのだろうか。
「それから、すーって右手を上げて、また「泡」で飛ぶつもりかな、って思ったら、その手を、手まねきするみたいに、こう、おいでおいで、って」
背筋が、ゾッとした。それは、僕だから、だろうか。
にっこり微笑んだ自分自身においでおいでと手招きされる?
それってもはや、ホラーでは。
「あ、やっぱりそうなの?わたし、なんとなく、Kに呼ばれてるような感じがしちゃって、ついふわっと飛んで行きそうになったの。そしたら、クロちゃんが「ダメ」って、止めてくれた」
てへへ、とまるで照れ隠しでもするように、Jは笑ってごまかそうとしてるけれど、それはもちろん「ダメ」に決まってる。
ああ、クロちゃんありがとう、と僕は心から思った。
「そしたらあの子、またこの前みたいに、ゴーグル?顔につけて、スーって滑るように教会のお庭を出て行った」
出て行った?
J、お部屋は、Jの体は無事だよね?
「うん、だいじょうぶ。あの子がお庭を出て行ったから、すぐにお部屋の窓のところまで飛んで、中をのぞいてみたの。窓はしっかり閉まってて鍵もかかってたし、体もベッドですやすや寝てたよ。だから、すぐにまた飛び立って、今、丘を下って行くあの子を見つけて、追いかけてるところ。北へ向かってるみたい」
そう聞いて、きゅっとNが速度を落として方向を変えた。そしてまたすぐに加速する。ずっと路地裏やよその家の塀の上とか軒下とか、ビルやマンションの裏側とか、道なき道を走っているので、いったい今どこにいるのか僕にはわからなかったけれど、きっと、北へ進路を変えてくれたのだろう。
「きょ、教会の、北だと?じゃあ、丘、上らねーで、北に周り込む、か」
苦しそうなLの声が云う。心の声まで息切れするほど、なのは、無理もない。
Lは、つい先日まで半年間も眠り続けていたのだ。
まだ、体が本調子ではないだろうし。
「本調子だったとしても、マラソンとか、ね。そんなもの、オレの辞書には、ないから」
何かかっこいい感じでLは云ったけれど、云ってる内容は、残念ながらあまりかっこよくなかったかもしれない。
とはいえ、ひとまず、あいつが教会を離れたことで、緊急性というか危険度は下がったのでは、と思う。
無防備に眠っているJの体や、何も知らないJの両親が、何か危険な目に合うような事態は、とりあえずなくなった、のかな。
「うん。だからL、ゆっくりでいいよ。キミなら「線」で場所わかるから、多少遅れても追いつけるでしょ。それにあの子、滑るのやめて普通に歩いてる。もしかしたら、長時間は滑れないのかも?」
歩いてる
長時間は滑れない
なんとなく隣のガブリエルを見ると、彼もこっちを向いて、目が合った。
ガブリエルはうなずいて、
「うん。もともと「道」の移動距離はそんなに長くないんだよ。がんばっても10mとか、せいぜい15mくらいじゃないかなあ。もっと長い距離とか、長時間ずっと滑れたら、確かに便利だろうねえ。じゃあボクの修行は、それにしようかな」
ふふっと笑う。
「云われるまでもねー、「お庭を出た」ってとこらへんからもう歩いてるけどなー。あのやろー、絶対「線」でぐるぐる巻きにしてやるからなー」
Lは、何やら闘志を燃やしているらしい。
それにしても、とあらためて思う。
「オレンジの海」でつながっていて、心の声で話せて、本当に良かった。
こうしてばらばらの場所にいても、お互いの声が聞こえれば、それだけで安心できる。
「そうだねえ」
Jがしみじみと云って、でも、と口ごもった。
でも?
どうしたの、何か気になる事?
「あ、ごめん。でも、この道って、どこへつながってるんだったかなあと思って。丘の北側って、何があったっけ」
丘の北側
何があるのだろう。云われてみれば、よく知らないかもしれない。
丘の東は、高い崖になっていてその下は海だった。
南へ下ると、海沿いの市街地で、あのお祭りのあった神社や、海岸に沿って単線の鉄道が通っていて、並行して走る海岸通りがある。通りにはアイと一緒に倒れたJを連れて駆け込んだ交番があり、少し北に無人駅と、あの海岸があった。
丘の西は、街外れの田園風景が広がる平地があって、その北には僕の住むニュータウンがある。
つまり、丘の北側は、位置的にはニュータウンのほぼ真東に当たる、はず。
そう考えると、南と同じように丘が続いていてその東には海がある、のだろうと、なんとなく思っていたのだけれど。
あらためて、いま僕がいる場所の辺りを見ると、何もない空き地や雑木林などの目立つ街外れの風景だった。
想像していたような丘陵地ではなく、丘の西側の平地と、あまり変わらない景色が広がっている気がする。
「あれ、線路かな。単線の鉄道があるよ」
Jがそう教えてくれた。
線路
海岸沿いの単線の鉄道、だろうか。
だとすると、丘を北へ下りつつ、だいぶ東の海側へ近づいていた、のかもしれない。
「いや、何か思い出したぜ。J、それって廃線の線路じゃね」
廃線
もう電車が通っていない鉄道、という事?
「そ、海沿いの単線、確か、シオミ浜線とかいう名前だったと思うけど。おまえらがお祭りの日に行ったあの浜の手前に無人駅あったろ。いま電車が通ってるのはあの駅までだよ。そこから先、つまり北方面は廃線になってる。大地震の津波の影響で」
何でも知ってるわけじゃねーと云いながら、実は案外何でも知っているLが、そう教えてくれた。
「ハイセン?あー確かに、よく見たら、線路が雑草に埋もれてるよ。でも、大地震?ってもう何年も前じゃない。わたし達が生まれる前でしょ?」
「はあ、生まれてるだろ。12年前だから、ギリ生まれてたはず。Kはさすがに、生まれてないけどなー」
12年前
大地震
津波の影響?
また、何かが引っかかったような、引っかかりそうな、そんな気がしたけれど、何なのかはわからなかった。
「キクタ、見えました。おそらくあれがJ、いえ、クロウかと」
Nがそう云って、走るのを止め、歩きながら視線が前方ななめ上を見上げた。
農道のようないかにも古そうなあちこちひび割れた細いアスファルト道路の向こう、雑草の生い茂る草むらに立つ電柱の上に、黒いカラスが曇り空を背景に影絵のように止まっている。
カラスだけれど、クロちゃんかどうか、僕には自信がなかった。
「J、たぶん追いついた、ってNが。電柱に止まってるの、クロちゃん?あ、Nは、そのちょっと西側のひび割れた道路にいるんだけれど」
そう、声をかけると、電柱の上のカラスがわずかに首を動かしてこちらを見た、ような気がした。
「あ、Nちゃん見えたよ。さすが、速いねえ。あの子は、その道路の先の、あれ?線路の方に移動してる。K、こっちに来るようにNちゃんに云って。この電柱の下が廃線の線路なの」
クロちゃんが、まるで僕らを招くように電柱の上でばさっと羽ばたきをした。
「承知しました」
云うよりも早く、Nは軽いステップで道路わきの草むらを飛び越え、雑草に覆われた錆びたレールの間にひらりと着地した。
前方に小さく、デニムシャツに半ズボンの子供の後ろ姿が見えた。
30~40mほど先、だろうか。つかず離れずの絶妙な距離に思えた。さすがはクロちゃん、追跡もベテランだ。
それに、カラスはとても眼が良いと聞いたことがある。この程度の距離なら、見失う事もないのだろう。
「おー、さすが物知りだねえ。そう、すっごく眼がいいんだよ。視界も広いしね、人間より色もたくさん見えてる気がするよ」
Jが得意げにそう教えてくれた。
視界も広い、色もたくさん
それは、見てみたいかもしれない。
飛ぶのは、やっぱりちょっと怖いけれど。
ばさっという羽音とともにクロちゃんが空を飛び、次の電柱に移った。
Nも軽やかに駆けて、クロちゃんのいる電柱の真下で足を止める。
「キクタ」は、振り返るでもなく、また急ぐこともなく、黙々と線路の上を北へ向かって歩いている。
いったい、どこへ行こうとしているのだろう。
「さてなー。鉄道が廃線になるくらいだ、この先は津波の被害が大きかった辺りなんだろうと思うけど。何があったとか、どんな状況だったとか、そういうのは見たり聞いたりした覚えがねーんだ。妙だよなー」
Lも何があったのか知らない場所。大地震による津波の被害があって、鉄道が廃線になった。けれど、それ以外に被害状況だとか何かそれらしき情報を見た覚えがない、という事?
確かに、妙だった。
「ふむ。K、この状況、何かに似てると思わない?」
真剣な表情で、じっとNの視界を見つめながら、ガブリエルは記憶を辿っているようだった。
何かに似てる
大地震があった、津波被害があった、けれど、情報がない。
そんな話を、最近どこかで、確かに聞いた気がする。
聞いた?違う、図書館で調べた、のでは。
「そう、隕石だ」
ガブリエルがこちらを向いて、ぱっと顔を輝かせる。
隕石が落ちた。そのニュースはある、けれど、落下地点がわからない。その後の情報もない。
L、隕石だ。隕石の情報と、似てる。
「隕石?おお、なんだおまえ、天才か、今日」
大げさに驚いて、Lは、ふっふーと笑う。
いや、天才はLだからね。それに今のは、僕が気づいたわけじゃないし。
ちらりとガブリエルを見ると
「いやいや、図書館を思い出したのはキミ。うん、天才」
おどけるように笑って、僕に拍手をしてる。
「緘口令か、情報規制かなー。じゃあ何だ、廃線の先に秘密の軍の施設でもあったとかかなー?どーやらこれは、当たりっぽいねー」
ひとりごとのように云って、Lは、ふっふっふ、と笑ってる。
「隕石?カンコーレイ?何?え、もしかして、わからないの、わたしだけ?」
Jが困惑していたので、図書館で隕石のニュースを調べた時の事と、その新聞記事を父に見せた時に彼が話してくれた緘口令について、かいつまんで説明した。
「ふむー。つまり、北側の津波の被害状況がどこにも知らされてないのは、何か秘密があって誰かがわざと隠したってこと?」
僕の雑な説明でも、わかってもらえたようでほっとした。
「南の方の、港辺りもけっこう津波被害があったらしいんだけど、あっちは復興だ再開発だってなんだかんだと最近までニュースになってただろ。港も街もぴっかぴかに新しくなってるしなー。それに比べて、異常だよな。10年以上も前に「無人駅より北側の鉄道は廃線」それで終わり。そんなわけあるか?」
単線とはいえ鉄道が通っていたくらいだから、人もいただろうし、何かしらの施設だとか会社だとか工場だとか、何かはあったはず。人や物の流れも。
「うん、電車が通ってるのに、まさか誰も住んでなかった、なんて思えないよね」
Jが云う。きっと、人差し指をあごに当てながら。
そう話している間にも「キクタ」は北へ歩き続けているらしい。クロちゃんがまた羽ばたいて、次の電柱へ飛ぶ。
「緘口令や情報規制だけじゃねーな。たぶん、認識も消されてるんだろ。あの公園や工事現場と、同じにおいがぷんぷんするぜー」
Lのその指摘を聞いて、妙に納得がいった。
だから、だ。
だから、Jも僕も、「丘の北側」に何があったのか、思い出せなかった。
いや、より正確に云えば、たぶん、僕らには、あの「力」は直接は効かないはずだった。
だから僕らが、「丘の北側」の認識を消されている、という事はないはず。
けれど、街中の誰も彼もがその認識を消されていて、その中で育った僕らは、少なからずその影響を受けている。
誰も気にしない、話題にもしない、だから、僕らは知らなかった。知るすべもなかった。そこに何があるのか、興味すら抱くことはなかった、という事なのかもしれない。
やっぱり少し、怖さを感じた。「認識されない」という事の怖さ。
誰も困らない、誰も傷つかない、痛くもかゆくもない、けれど、ただ静かに忘れ去られていく、そんな怖さ。
「致し方なし」
ぽつりと、ほとんど声を出さずに、ガブリエルがつぶやいた。
致し方なし、だな
忘れもしない、僕を救出に来たキクヒコさんがつぶやいた言葉だ。
思わず隣のガブリエルを見つめると、僕の視線に気づいたのか、ガブリエルは、はっと息を吸い込んで、こちらを向いた。
「ああ、ごめん、声に出てたね?今、ぜんぜん別のことを考えてただけ。キミに云ったわけじゃないから、気にしないでね」
少し照れたように、いつもの笑顔でガブリエルは云う。
びっくりした。
認識の喪失、あの「力」を使うことについて、「致し方なし」と云ったのかと思ってしまった。
あるいは、キクヒコさんもそうだったのかな。
認識の喪失ではなく、他人の体に意識を移すことで、記憶を失う、つまり「忘れ去る」
あの時、もし彼がヌガノマの体を奪いに行こうとしていたのだとしたら、それによって彼はまた記憶を失う事になる。それを「致し方ない」と云っていたのかも。
いや、本当のところは、僕にはまだわからないのだけれど。

「線路に着いたぜー」
Lのいつもの陽気な声が云った。
姿は、まだ見えないようだけれど。
「んん?L、どこにいるの。見えないんだけど」
Jが尋ねる。
視力抜群の、しかも電柱の上から見下ろしているクロちゃんの眼でも見えない?
「たぶん、そこからだと100m以上は北かなー。先回りした。挟み撃ちにしよーぜー」
先回りした
挟み撃ち?
天才軍師か、と思った。
遅れていると見せかけて、あいつの前方に回り込むなんて。
「うん、味方をも欺くとは、見事な策士だね」
ガブリエルも隣で感心してる。
「先回り?あの子より前にいるって事?」
Jも驚いてる。
僕も、さっきまで普通に「海」で会話していたから、てっきり後ろから歩いてくるのかと思ってた。
100m以上も先にいるなんて、きっとこっそり走っていたのだろう。
あるいは、「線」であいつと僕らの位置とを確認して、最短コースをショートカットしたのかもしれない。
いずれにしても、さすが、Lだった。
「それで、挟み撃ち?って、わたし達、どうすればいいの」
Jが尋ねると
「そのまま、あいつと少し距離を詰めながら、追いかけてくれたらいいぜー。ある程度近づいたタイミングで、オレとラファエルで前を塞げば、あいつも少しは狼狽えたりすんだろ。その隙に、くるくるーっとね」
Lはいつものように、簡単そうに云う。でもこういう時は、それがとても心強い。
「くるくるー?」
あ、そうだった。Jはまだ、Lのあの「技」を見てないんだ。
Lの「線」の力がパワーアップして、線を飛ばして巻き付けることができるようになった、というのをざっくりとJに説明した。
ざっくりと、なので、眼帯とデリンジャー?の事は割愛したけれど。
「へえ、さすが、Lだねえ。わかった、じゃあ、ちょっとずつ、あの子に近づいて追いかけるよー」
Jが云って、クロちゃんが電柱から斜めに降下するように前へ飛ぶ。
そのまま、地面すれすれを維持しながら低空飛行で距離を詰めて行く。
Nも、そのクロちゃんに並走するように、駆け足で進む。
距離が近づいたことで、「キクタ」の後ろ姿がよりはっきりと見えてきた。
やっぱり後ろを気にするそぶりも見せず、辺りを見回すでもなく、黙々と前を向いて歩いてる。
迷ったり道を確かめたりするような様子は、全くなかった。
その揺るぎない足取りは、この先に明確な目的地があって、ただ真っ直ぐにそこを目指して進んでる、そんな風に見える。
「うん」
助手席で、ガブリエルがうなずいて、その自分の声に驚いたように、はっと短く息を飲んだ。
どうしたのだろう。やっぱり今日のガブリエルはどこかおかしい。
何か、思い詰めているような、ずっと、思い悩んでいるような。
「K」
ガブリエルが僕を呼ぶ。
隣を見ると、彼は、じっと前を見据えたままで、
「率直なキミの意見を聞きたいんだけど」
彼らしくもなく、ぼそぼそと口の中でつぶやくように云う。何か、言いづらい事でも口にするみたいに。
「ここで、「キクタ」を捕らえて、本当にいいのかな。キミは、あいつがどこへ向かおうとしているのか、気にならないかい」
そんな事を、ガブリエルは云った。
Nの視界を掠めるように、クロちゃんが、ぐっと大きく左へ旋回してすぐに急上昇し、次の電柱に止まると、またすぐに飛び立って斜めに降下する。
そのまま低空飛行で、線路の上を駆けているNと並ぶ。
「キクタ」との距離は、15mほどまで近づいてる。
どこかで身を潜めているのか、Lとラファエルの姿は、まだ進路上にも見えない。
ここで「キクタ」を捕らえて、いいのかな
あいつがどこへ向かおうとしているのか、気にならないかい
ガブリエルは、僕にそう聞いた。
彼らしくない質問だった。云い方も、その内容も。
「うん、認めるよ。確かにボクらしくない」
そう云って、ようやくこちらを向いたガブリエルの顔は、今まで見たことがないくらい、困惑して、狼狽えてさえいるように見えた。
いったい何が、そんなにもガブリエルを困らせているのだろう。
「キミの体を取り戻すのが最優先。再三、ボクはそう云ってきたし、今もそう思ってる。けど、わからなくなった。何が正しいのか、ボクはどうすべきなのか」
そう云って、ガブリエルは力なく目を伏せる。
あいつがどこへ向かおうとしているのか、それは僕も気になる、すごく気になる。
地震による津波被害で廃線になった鉄道、いま僕らが進んでいるのは、それだった。
けれどそれは、ただの廃線ではなく、あの80年前の隕石の記事や、あの公園や工事現場と似た「何か」を持つものだ。
その「何か」が、つながりそうな気がする。率直に云えば、僕はそう思ってた。
もしも、今、Lの「線」であいつを捕らえて、Nがあいつの鼻に鼻先で触れて、僕があの体を取り戻したとしたら、
あいつがどこへ向かおうとしていたのか、それは、わからないままになる?
いや、そもそも、
本当に、それで体を取り戻せるのだろうか?
もしあの体に僕らが入ったら、あの中に、あいつも僕も、そしてガブリエルも、3人の意識が同時に存在する事になるのでは?あの時のルリおばさんのように。
あるいは、僕とガブリエルがあの体に入る、その代わりに、入れ替わる形で、あいつの意識がNの中に入る?のかもしれない。
どうなるのか、正確にはそれは、わからない。
何もかも、僕らにはわからないんだ。それが正しいのかも、あるいは間違っているのかも。
だからガブリエルは、こんなにも困惑しているの。
何が正しいのか、ボクはどうすべきなのか、そうガブリエルは云ったけれど。
それは、僕も同じだ。
何が正しいのか、僕はどうすべきなのか、いまの僕には、正直わからない。
「失礼、差出口は承知の上で、一言だけ」
ガブリエルの膝の上で、じっと前を向いていたNの意識が、僕を見上げて口を開く。
「なるようになります。信じて見ていてください。いずれにしろ、今はアナタもガブリエルも、何も出来ないでしょう」
淡々といつものようにNはそう云って、何事もなかったかのようにまた前を向いた。
下を向いたままだったガブリエルがぽかんと口を開けて、膝の上のNを見て、それから僕を見た。
Nの云う通りだった。
僕もガブリエルも今は何も出来ないという事も、
仲間を信じて見ているしかないという事も。
なるようになる、という事も?
「ほんとだね。Nの云う通りだ」
少し困ったように眉を寄せて、けれどガブリエルはいつものように笑顔で云う。
そして自身を納得させるように小さくひとつうなずいて、前を向く。
「よーし、じゃあ行くぜー」
何だか妙に楽しそうなLの声が、「オレンジの海」から聞こえた。
わかってる、
「何事も楽しんだもんの勝ち」
Lはきっとそう云うはず。
Nとクロちゃんは、すでに「キクタ」の後方10mほどまで迫っていた。
「キクタ」は変わらないペースで歩き続けていたので、あと数秒で完全に追いつく距離だった。
ざっと右手の薮が揺れて、ラファエルと、次いでLが線路に飛び出して来る。
「キクタ」の前方、5〜6mの距離だった。目と鼻の先、手を伸ばせば届きそうな距離だ。
いつもの陽気な笑顔を浮かべたLの左眼にはあの黒い眼帯がすでに装着されていて、右手には、デリンジャーを構えている。
すでに指示は出していたのだろう、藪から飛び出すと同時に、ラファエルが「キクタ」に向かって飛びかかっていた。
完全に不意打ちだったはず。
後ろをついてくるNとクロちゃんの存在にはあいつも気づいていたのだろうけれど、前からLとラファエルが現れるとは、夢にも思わなかったのでは。
僕らは後ろからなので、その時「キクタ」がどんな表情をしていたのか、その顔は見えなかった。
あいつは、驚いたようにその場で足を止めてた。
カチッ、とLが引き金を引く音が響いた。
同時に、白い「線」が現れた瞬間にはもうあいつの両足の膝の辺りにぐるりと巻きついていた。
捕まえた。
飛びかかっていたラファエルが「キクタ」に覆い被さるようにその場に押し倒す、はずだった。
両足にしっかりと巻きついていた白い「線」だけを残して、あいつは姿を消していた。
ラファエルは何もない空間に飛びついて通過し、そのまま線路の左側に勢い余って着地していた。
消えた?
「いいえ、あれはキクヒコの「輪」です。Lの「線」が巻きついた瞬間、足元に「輪」を出して飛んだようです」
Nが駆けていた足を止めて、くるりとらせんを描いて宙に浮いたままのLの「線」を呆然と見つめ、淡々とそう云った。
あの晩、コンビニ前の交差点で、アイが見たと云う「目の前で消えた」は、「輪」の能力だったのかもしれない。
クロちゃんはNとラファエルの上を大きく旋回して、近くの電柱の上に止まった。素早く辺りを見渡して、あいつの行方を探してくれているようだった。
Nの声が聞こえないLとJに、先程のNの説明を伝えた。
「うん、足元の地面に見えたよ、何か白く光る輪っか。あれでパッと消えちゃうの?すごい」
Jが云う。さすが、クロちゃんの視力、だろうか。Nもだけれど。
残念ながら、僕には「輪」までは見えなかった。
「てか、どこまでチート性能なのあいつ。よりによって「輪」とか反則だってー。あれって距離関係なく飛べるんだろー?」
銃をホルスターにしまい、眼帯をまた上にずり上げて、Lも辺りを見渡している。
「距離に制限はないはずですが、飛べる先には制限があります。頭に浮かんだ候補の中からしか飛べません」
Nの解説を、また僕はLに伝える。
「うん、前にKからもそう聞いたよなー、んで行き先候補は神のみぞ知る、だろ?そんなもんどうやって、お?」
Lが途中で言葉を止めて、空中を指さしている。銃をしまったので、戻ってきた「線」がまたあいつの方を指したのだろうか。
「意外と近いんじゃね。正確な距離まではわかんねーけど、近そう?かな?くらいしか」
Lが指しているのは、ほぼ真北のやや東寄り、だろうか。
「いた!って、クロちゃんが。わたしは、ごめん、見えない」
Jがそう云うのと同時に、クロちゃんは電柱から飛び立って北へ向かう。
Nもすでに、クロちゃんを眼で追いながら線路の上を北へ走り出している。
「まーた走るのかよー」
ぶつぶつ云いながら、Lも「ラファエル!」と愛犬に声をかけて走り出した。
僕は、Nの云う通り、信じて見ている事しかできない。
そして、ガブリエルも。
ちらりと横目で見ると、ガブリエルはじっと前を見つめ、腕組みをして何か考え込んでいるようだった。
けれど、さっきまでとは少し雰囲気が違う気がした。どこがどう、とは、いや、眼だろうか。
Lと同じ、鮮やかなブルーのきれいな眼が、何かきらきらと輝いているような。
謎や疑問を見つけた時のLの眼と、同じきらきら、のように僕には思えた。
さっきのNの言葉で、悩み事も吹っ切れて、眼の前の謎に集中できたのかな。
そうだったらいいな、と僕は思った。

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